川合典子 ブログ

英語教育、英語学習、発音習得、帰国子女の言語習得について書いています。

空(から)のコップを見ることができない(2)「発音のコップ」

英語を英語で理解する、というやり方をとる人は、日本語を介在させないので、 しゃべるときにも、最初から英語で言いたいことを生徒にしゃべらせます。  そうすると発音にも問題が生じます。

発音習得というのはまず、注意深く音を聞いて日本語にはない英語の発音を耳の中に蓄積して行くことから始まります。 

小学校1年生の息子がネイティブと同じ発音でしゃべりだしたのは、プリスクール、幼稚園、小学校とアメリカの学校に通って、まずたくさんの英語を自分の耳で聞いたからでした。  最初は周りで話される英語をたくさん聞いて、自分の耳の中に英語の音を蓄積して行ったのです。  前回の表現を使えば、耳の中にある「英語の音のコップ」をいっぱいにして行ったのです。  そうやって日本語にはない英語の音をたくさん聞いた後、ネイティブと同じ発音で話し始めたのです。

日本で英語学習を始めたばかりの初心者はまだ、英語の発音を十分聞いていません。  例えて言えば、耳の中の「英語発音のコップ」はまだ、空っぽです。  2年くらいは発音をよく聞いて、聞こえた通りに発音する練習をすると、正しい発音で話せるようになります。  そうやって注意深く英語の音を聞いて、英語発音のコップをまずいっぱいにしてから、聞いた通りに話す練習をすると、正しい発音でしゃべることが出来るようになります。  発音を聞くことは、正しい発音を習得する土台になります。  

それをしないで、いきなり自分のいいたいことを英語で話させるような指導をすると、初心者の耳の中にある「英語の音のコップ」は空っぽですから、代わりにどこかほかのところから音を持ってきてしゃべることになります。 

音がいっぱいになっている、ほかのコップは一つしかありません。  「日本語の音のコップ」です。  だから発音練習を十分しないで、いきなり言いたいことを英語で話させると、生徒は日本語発音の英語で話し始めます。   これをいったんやってしまうと、発音矯正は大変です。  最初に話し始める時に、2年くらい発音練習をきちんとやれば、そういう問題は起こらないのに、いったん、自己流で話し始めてしまうと発音矯正はとても大変になります。   

アメリカに行けば、子供たちはアメリカ人の中に入れるだけで、英語で話し始める、と思っている人がいますが、それは小学校低学年までです。  (低学年であっても「うちの息子はすごく大変だったみたいだった」と先日シカゴにいた時、息子の友達だったお母さんにお会いしたら、おっしゃっていました。  そのお子さんは、プリスクールに行っていなかったので、大変だったのだと思います。

小学校6年生の子供がなかなか適応できなくて苦労したお母さんに聞きましたが、カウンセラーは「どんなに遅い子でも1年半たてば、英語を話し始めますから大丈夫ですよ」と励ましてくれたそうです。  小学校高学年でも、遅い場合は、1年半かかって、話し始めるくらい、最初は、たくさん聞かないと、コップはいっぱいにならないのです。

アメリカにいれば朝から晩まで英語は耳に入ってきますが、ここは日本ですから、意識して発音練習しなければ、耳の中に英語は入ってきません。  日本の英語教育で「とにかくまず、生徒に英語で話させればいい」と思っている人は「時代錯誤」ならぬ「場所錯誤」をしています。  

「錯誤」とは

事実と観念が一致しないこと。  
現実に起こっている事柄と考えが一致しないこと。

です。(広辞苑より)  まさに、その人が思っていることと現実に起こっていることに、大きな差があるのです。

ここは日本ですから、朝起きて英語で天気予報を聞いて、駅で英語のアナウンス聞いて、ストリートの看板を英語で見て。。。。そういうことはないのです。  一日中、ここで生活していても、英語のインプットはまったくないのです。  アメリカでやっていることを形だけ日本に持ってきても、英語環境が全く違うのです。  

私は3冊目の本「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」の「はじめに」で、「アメリカでやっていることをそのまま日本に持ち込んでも、日常生活で大量に英語を聞くわけではない日本では、効果がないと思われる指導法もありました」と書きました。

子供たちの英語習得の過程を見た私は、海外に行った人が、「僕は最初から全部自分でできたんだよね」と言った私の息子のように英語ができなかった頃のことを忘れて、日本の初心者に様々な指導法を行っていることが、日本人の英語力の向上を妨げる大きな原因だと思いました。  ですから、この点はとても注意して、子供たちの学習方法を観察しました。  

この時、私自身が、日本を一歩も出ることなく英語を学んだ、という経験が、学習法をふるい分けするときに非常に役立ちました。  その学習法が日本で効果を上げるかどうかは、日常的に大量の英語のインプットがなかった自分の学習過程を振り返ればわかりました。  また、帰国子女本人が忘れてしまったプロセスも、横で見ていた私はよく覚えていました。  母親は子供が苦労していた時のことは忘れないものです。


日本にいて、初心者に言いたいことを全部英語で言わせるというのは、まさに「場所錯誤」の指導法です。  ネイティブ発音のインプットはここではまったくないのです。  英語発音をたくさん聞いていない初心者に言いたいことを英語で言わせれば、発音は日本語英語になることは、発音の教師ならだれでも知っています。  上級者である指導者は頭の中で洪水のような英語のインプットがあるアメリカを思い描いているのかもしれませんが、  ここにあるのは洪水のような日本語です。  

日本語の洪水の中で、「英語の音のコップ」は空っぽのままで、言いたいことを全部英語で言わせたら、日本語発音の英語が出てくるに決まっているのです。 「日本語発音」は、一歩日本の外に出て、日本人の英語を聞いたことのない人には、通じません。  通じない発音でどんなコミュニケーションの指導をしても、無駄です。  相手の人はまったく理解できないのですから。   

私は、生徒に最初から英語で自分の言いたいことを言わせている人は、正しい発音と日本語化した発音を聞き分けることができないのだ、と思っています。

いきなり初心者が言いたいことを英語で話せば、子音は日本語化しますし、リズムも等間隔で切れる日本語のリズムになります。  その違いが聞き取れないのだ、と思っています。 私が、2月1日のブログで再現した、生徒さんの日本語化したWとネイティブのWの音の違いが聞き取れないのだと思います。  あるいはずっと日本人の英語を聞いてきてもはや違和感を感じなくなっているのかもしれません。  

外国語を学ぶには順番があります。  きちんとした道筋があります。


先回のブログでは「英語を英語で理解する」は初心者にとっては
わからない言葉(英語)をわからない言葉(英語)で理解する。

という、良心的でない指導法だ、と述べました。  なぜなら、生徒は何も教えてもらっていないことと同じだからです。

今回は、初心者に最初から自分のいいたいことを英語で言わせるのは、「場所錯誤」だと述べました。

いずれも理由は、指導者が、初心者の空っぽの「英語のコップ」空っぽの「発音のコップ」を見ていないことが原因です。

指導者の頭の中で、現実と観念が一致しない「錯誤」が起こっているのです。  錯誤に基づいた指導法を続けるのは良心的な教え方ではないと思います。

私は、大学時代に読んだ「英語で考える」ということについて書いた本を、もう一度読んでみました。  そうしたら、その中に、著者は、膨大な量の英文読書をした、と書いてありました。  

「1日少なくとも100ページを標準にして次から次へと読んで行った(中略)1年間に100冊くらい読んだであろう」(「英語と私」 松本亨 英友社 30ページ)と書かれていました。  

私は、「これだな」と思いました。  この人が、英語で考えるようになったのは、単語の意味を英語で言ったからではない、この大量の読書によって、この人は英語で考えるようになったのだ、と思いました。  

それなら私の体験とも一致しますし、子供たちが大量のインプットによってバイリンガルになって行った過程とも合致します。  この人が英語で考えるようになったのは、単語の意味を英語で言っていたからではなく、この大量の読書の結果、英語で考えるようになったのだと確信しました。

それなら、私も十分納得ができます。

「僕は最初から全部自分でできたんだよね、お母さん」と言った私の息子と同様、ご本人は、思い違いをされたのでしょう。  これでようやく、なぜ

「英語(わからない言葉)を英語(わからない言葉)で理解する」

という、実際には初心者にはできない指導法を思いつかれたのか理解出来ました。  ご本人の思い違いからだったのですね。 
この本の初版は1958年ですから、日本人は半世紀以上も、この思い違いを信じてきたことになります。 

(この事項とは直接関係ありませんが、文法についても「自然に覚えるべきもの」(「英語と私」 松本亨 英友社 220ページ)と書かれていました。  息子と娘の文法習得の違いを目の当たりにした私は、文法習得についても、この人とは全く異なる見解を持っています。  詳しくは「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」第6章をご覧ください。)

日本語は英語習得の過程で、ある一時期、一過性のサポートをするだけです。  (育児で言えば、一時、使う「おしめ」の役割と似ています。  大人になっても「おしめ」をしている人はいません。)  そして、初級者は、母国語を使った方が、効率的に、速く英語を習得できます。  子供たちの英語のコップは日本語訳によってみるみるいっぱいになりました。    

英語学習者は「日本語を使ったら英語力が伸びない」という、根拠のない呪縛から早く自由になってください。  そんな“迷信”は、「大人までおしめをしている人はいない」とはねのけてください。  子供たちは、洪水のような大量の英語を超高速で処理してバイリンガルになりました。  それを可能にしたのが、単語の意味を一瞬で理解できる日本語訳だったのです。  これは事実です。    

皆さんも、日本語訳を上手に英語学習に取り入れて、どんどん英語をインプットしてください。  それが、高い英語力を身に付ける近道です。

そして、「英語で考える」ようになるためには、やはり、「大量の読書」が必要だったのです。  それが真相です。  私は、自分の体験と、子供たちがバイリンガルになる過程から、確信しています。  皆さんも、どうぞ、英文読書を開始してください。  英文読書能力養成プログラムは、「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」114ページに書いてあります。  どうぞ、ご活用ください。

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私の2冊目の本「続・英語発音、日本人でもここまでできます。」を購入された方で、付属のCD、トラック6に録音されております、Where’s my bag? の「W」の音の比較が聞き分けられない方は2月1日のブログ、「生徒のWの音は川合典子にはどのように聞こえたか?」をお聞きください。  これで、日本語化したWとの違いが聞き分けられるようになります。

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ブログ「空(から)のコップを見ることができない(1)英語のコップ(2)発音のコップ」に書きました、私の主張に納得できない、という方は、以下のブログもお読みください。  日付をクリックするとそれぞれのブログに移動できます。

2013年5月19日 (1)高校生の皆さんへ
新しいことを学ぶスタートのときに基本を習得しないと、後からは身に付けられないことを述べています。

2013年5月22日 (2)「こんなもの、いくら英語で説明されたってわかんないんだよ」
英語のわからない人に英語で教えることは無意味です。  アラビア語アラビア語で教えられてわかりますか。

2013年5月24日 (3)「英語を英語で理解する状態」とは、どういう状態か。

2013年5月26日 (4)予告編だけでは映画はわからない
言葉は教師に教えてもらうことだけで、十分なのではありません。  自分で学んで理解していくことがたくさんあります。

2013年5月28日 (5)2つの「英語を英語で理解する」は全然違うこと。
上級者と初級者の「英語を英語で理解する」の違い

2013年5月30日 (6)上級者のやっていることを真似しても頭の中でやっていることは初級者のままです。

2012年12月14日  駐在員のお父さん、無理なことを子供に言わないで。
会社で「英語以外しゃべるな」と言われたら、お父さんは仕事、できますか。

2013年5月12日  だんだん、わかってくること。  初心者が英語を英語のまま覚えれば英語のニュアンスがわかるのでしょうか。

また、本「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」にも、子供たちが英語を習得していく過程を書きました。  彼らは教科書の全文和訳によって、バイリンガルになって行きました。 

ヨーロッパの英語教育はどうなのか?という疑問をお持ちの方はこちらのブログをご覧ください。

2014年11月18日 英語の早期教育が有効だと錯覚させる2つの誤解(その2)
            ヨーロッパの英語教育に対する誤解

文中に書きました先生方の授業の思い出はこちらで読めます。

大束百合子先生  2011年8月22日  英語教育法の授業
         2013年6月9日 順を追って学ぶことの重要性

伊勢田耀子先生  2013年6月28日 教育原理の授業

仁科弥生先生   2013年3月12日 教育心理の授業
         2013年4月28日 高校時代の思い出

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高校入試で子供たちが親の収入によって差別されない為に以下のお知らせを書かせていただきます。

高校入試のスピーキングテストについて(大学入試のスピーキングテストについても同様です)

高校入試のスピーキングテストは本来文部科学省が学校教育で正しい発音を生徒に教えてから行うべきものです。  しかし、文部科学省が教科書にCDもつけず、正しい発音の仕方も学校で教えないまま、高校入試でスピーキングテストを実施する動きが都立高校などで始まっています。 (大学入試でもスピーキングテストが行われようとしています)  これは、スピーキングスキルの習得を塾や予備校、会話学校に丸投げするものです。  学校で教えていないスキルを入試でテストすることはあり得ません。

これでは経済的に余裕のない、塾や会話学校にいけない家庭の子供は誰にも正しい発音を教えてもらえず、練習するCD(音声モデル)も与えられないまま、高校入試でスピーキングテストをされることになり、明らかに親の収入による進路の差別が始まります。(詳しくは2018年3月8日のブログ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」をお読みください。)

皆さんの身近に教育関係者がいらっしゃいましたら、ぜひ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」であることをお伝えください。  (大学入試のスピーキングテストについても同じことです)  
15歳で親の収入のために進路を差別されるのでは子供たちがあまりにもかわいそうです。

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英語教育については、下のブログも併せてご参照ください。  日付をクリックすると移動できます。
2017年10月12日
文部科学省 新中学校学習指導要領 英語 「4技能」は全く効果がない(子供たちが通じる発音でスラスラ話せるようになる学習指導要領の見本付き)




高校英語教育を文部科学省の誤解に基づいた方針から守るため、以下のご案内を書かせていただきます。

現在文部科学省が「グローバル化に対応した英語教育改革」の目玉として掲げているCAN-DO方式は、ヨーロッパの人々にはできますが、日本語を母国語とする人にはできない方式です。

文部科学省は「CAN-DO方式が日本人には不可能な方式である」と気づいておりません。  導入されれば教育現場は大変迷惑します。  中止する必要があります。  なぜCAN-DO方式が不可能なのかはこちらのブログをお読みください。

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何度もお願いをしているのですが、アマゾンのページで私の本のランキングを下げて妨害をしている人がやめてくれないので、(詳細はこちらです)しばらく以下の文章を掲載させていただくことにしました。

「本を出版する人は、他の著者の妨害をしない。  他の著者を妨害する人は自分の本も出版できない。」
出版社におかれましては、このことを出版の際、著者に理解していただいてください。

私のランキングを妨害している人は、たぶん、現実を受け入れられないのでしょう。
アマゾンの順位を1ペ―ジ目から2ページ目に下げられ、数日でまた2ページ目から3ページ目に下げられて、私は、この方の激しい妨害に驚いています。 

「学習者に正しい発音を習得してほしい」というのが自分の目標でしたら、他人を妨害する必要はありませんね。  他人を妨害してまで、何を手に入れたいのでしょうか。  ベストセラーの著者という名声ですか。  それなら、もうアマゾンで、ご自身の本はベストセラーに認定されているのですから、それで十分でしょう。  この上何が欲しくて私を妨害するのでしょうか?  もう英語教育とは関係ないことですか。  

私は、こちらに書いてある3つのことをするのが、目的です。  日本人が子音の日本語化を知っているか、いないかで、通じる英語で話せるか話せないかが、決まります。  ですから、このことを読者の皆さんに理解していただくのは、とても大事なことなのです。  私の仕事の妨害をしないでください。 

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クマさん、ウサギさん、ブタさん、それぞれが持っている旗に書かれたことの理由は、2017年7月30日のブログをご覧になるとわかります。