川合典子 ブログ

英語教育、英語学習、発音習得、帰国子女の言語習得について書いています。

セミの抜け殻

私の家の周りには木がたくさんあります。  夏はセミの鳴き声がうるさいくらい聞こえます。  ですから夏になると、セミの抜け殻を見かけることがあります。  地面に転がっている時もありますし、木にくっついていることもあります。  セミが抜け出た後の半透明で薄茶色の抜け殻です。  中身がなくて殻だけです。

昨日の朝、窓からビワの木を見ながら、私はこんなことを思いました。

もし、私が今アメリカに住んでいたとしたら、「ニャーオ」となく動物を「猫」と呼ぼうが「Cat」と呼ぼうが、私の心の中にできる猫のイメージは「暖炉の横でお皿からミルクを飲んでいるアメリカの猫」のイメージになります。

「こたつで丸くなっている猫」のイメージは出来ません。

もし私が今、アメリカに住んでいたら、「ワンワン」となく動物を「犬」と呼ぼうが「Dog」と呼ぼうが、私の心の中にできる犬のイメージは、「比較的大きくて、家の中も外も自由に出入りするアメリカの犬」のイメージになります。

つまり、英語のイメージ、英語のニュアンスは「英語」で言うから身に着くのではなくその言葉が使われるシチュエイションをたくさん体験するから身に着くのだ、ということです。

ですから勉強するときは英語で言っていればイメージやニュアンスがわかってくるわけではなく、その言葉が使われたシチュエイションをたくさん勉強していくとわかってくるようになる、ということです。

「英語で考える」「英語を英語で理解する」という指導法の提唱者は英語のまま言っていたからニュアンスやイメージを体得したのではありません。  アメリカに住んで、人々がその言葉を使うシチュエイションをいつも見ていたから英語のイメージやニュアンスを体得したのです。

けれども彼はその事実を見ないで、「自分は日本語を使わないで、英語のまましゃべっていたから、英語のイメージやニュアンスを体得したのだ」と思い込んだのです。

なぜか?  その理由は彼の著書を読むとわかります。「英語で考える本」(松本亨著 英友社)67ページに「英語を始めて7年目に英文和訳ではラチがあかないと気づいた」と書いてあります。  つまり彼はここで「日本語訳は害がある」という先入観を持ったわけです。(実際には、日本語に訳して理解した時期があったからこそ、その後英語のまま理解できるようになった、というプロセスがあったのです。)  

その先入観に基づいて自分のアメリカでの体験を見ていたから、自分が英語のニュアンスやイメージを体得したのは、日本語を使わず英語を英語のまま言っていたからだと思い込んだわけです。  ここで、彼の指導法は客観性を失います。

そして、日本に帰って来て、まったく社会の中で英語が話されていない日本で、「英語を和訳せず、英語のまま理解しなさい」「英語の意味を英語で言いなさい」と生徒を指導したわけです。  彼は「そうすれば生徒は英語のイメージやニュアンスを体得する」と思い込んでいたのです。  

けれども日本で暮らしている生徒は、英語が実際のシチュエイションで使われるところをまったく見ることはありませんので、英語を日本語に訳さず、英語のまま言っても、イメージもニュアンスも体得することはなかったのです。

私はこういう指導法を考えるとまるで、セミの抜け殻のような指導法だと思います。  中身(人々が使っている言葉のイメージ)が全くない国で、それを表す言葉だけ生徒に英語で言わせる − セミの抜け殻のような指導法だと思いました。  もちろん殻が英語で、中身がイメージ、ニュアンスです。

生徒は中身の英語のニュアンスやイメージはまったくないまま、それを表す言葉だけ英語で言わされます。  英語の言葉が持つイメージやニュアンスなど、英語で何回言っても、わかるはずはありません。  日本にいたらその言葉が実際に使われるところを見ることはないからです。  

指導者は英語で言えば、英語のニュアンスやイメージが体得できると思い込んでいますが、生徒の方は英語で言っているだけではニュアンスやイメージはいつまでたっても空っぽのままです。  だから「セミの抜け殻指導法」に見えるのです。  形だけ上級者を真似させて、中身は空っぽです。  何の効果もありません。  この指導法は出発点から、客観性を失っているからです。

アメリカ生活が長かった提唱者は、英語で物の名前を言っていたからイメージやニュアンスがわかったのではありません。  アメリカでその言葉が使われるシチュエイションをたくさん見ていたからイメージやニュアンスがわかったのです。

この指導法を中学や高校に持ち込んで、英語の授業を英語で行うなどというのは、中学や高校の英語の授業をセミの抜け殻のように行うということです。  しかもカタカナ発音になりますので、イメージやニュアンスは空洞で、殻となる発音は、ぼこぼこの抜け殻になるわけです。

英語と「文化、語の成り立ち、音」すべて異質な日本語を母国語とする生徒に高い英語力を身に付けさせたかったら、抜け殻のような指導法を行っていてはだめなのです。

― 教えなければならないことは生徒が理解できる母国語でわかるように教えます。
― 練習させるべきことは徹底して練習させます。(中学時代ー発音)
― 訓練するべきことは徹底して訓練します。(高校時代ー語順)
― インプットするべきものは大量にインプットします。(大学時代ー英語で言いたいことが浮かんでくる)

日本で生徒に高い英語力を身に付けさせたかったらするべき学習を徹底して行うことです。 

その言葉が持つイメージ、ニュアンスは「その言葉を使う人々が生活する社会」が与えるものであり、英語のまま言っていれば与えられるものではありません。

よって、日本の「中学校、高校の英語の授業を英語で行う文部科学省の方針」はその意味を失います。
「英語で考える」「英語を英語で理解する」という指導法を日本の英語学習初心者にする意味もなくなります。
(なお、大学教育を英語で行うことの問題点については、2016年3月1日より連載してあります。  皆さんの関心が高かったのは「大学教育を英語で行うと、教育を受ける権利の観点から集団訴訟に発展する可能性がある」と書いた、4月10日のブログでした。日付をクリックするとそのブログに移動できます)

文部科学省の新指導要領がセミの抜け殻のような指導法にならないことを切に願っています。


私は今年、何回も繰り返し文部科学省の方針の間違いを指摘してきましたが、それは子供たちをカタカナ発音から守りたい、という強い思いからくるものですので、その点に関しましては、読者の皆さんのご理解をいただきたいと思います。  幸い、出版社にも、私のこの気持ちを理解していただいて、感謝しています。

今年も一年間ブログをお読みいただきまして、どうもありがとうございました。




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高校入試で子供たちが親の収入によって差別されない為に以下のお知らせを書かせていただきます。

高校入試のスピーキングテストについて(大学入試のスピーキングテストについても同様です)

高校入試のスピーキングテストは本来文部科学省が学校教育で正しい発音を生徒に教えてから行うべきものです。  しかし、文部科学省が教科書にCDもつけず、正しい発音の仕方も学校で教えないまま、高校入試でスピーキングテストを実施する動きが都立高校などで始まっています。 (大学入試でもスピーキングテストが行われようとしています)  これは、スピーキングスキルの習得を塾や予備校、会話学校に丸投げするものです。  学校で教えていないスキルを入試でテストすることはあり得ません。

これでは経済的に余裕のない、塾や会話学校にいけない家庭の子供は誰にも正しい発音を教えてもらえず、練習するCD(音声モデル)も与えられないまま、高校入試でスピーキングテストをされることになり、明らかに親の収入による進路の差別が始まります。(詳しくは2018年3月8日のブログ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」をお読みください。)

皆さんの身近に教育関係者がいらっしゃいましたら、ぜひ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」であることをお伝えください。  (大学入試のスピーキングテストについても同じことです)  
15歳で親の収入のために進路を差別されるのでは子供たちがあまりにもかわいそうです。

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英語教育については、下のブログも併せてご参照ください。  日付をクリックすると移動できます。
2017年10月12日
文部科学省 新中学校学習指導要領 英語 「4技能」は全く効果がない(子供たちが通じる発音でスラスラ話せるようになる学習指導要領の見本付き)

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何度もお願いしているのですが、アマゾンのページで私の本のランキングを下げて妨害をしている人がやめてくれないので、(詳細はこちらです)しばらく以下の文章を掲載させていただくことにしました。

「本を出版する人は、他の著者の妨害をしない。  他の著者を妨害する人は自分の本も出版できない。」
出版社におかれましては、このことを出版の際、著者に理解していただいてください。

私のランキングを妨害している人は、たぶん、現実を受け入れられないのでしょう。
アマゾンの順位を1ペ―ジ目から2ページ目に下げられ(2017年7月16日)、数日でまた2ページ目から3ページ目に下げられて(2017年7月19日)、私は、この方の激しい妨害に驚いています。 特に赤い本、「英語発音、日本人でもここまでできます。」DVD付き。に対する妨害がひどいです。

「学習者に正しい発音を習得してほしい」というのが自分の目標でしたら、他人を妨害する必要はありませんね。  他人を妨害してまで、何を手に入れたいのでしょうか。  ベストセラーの著者という名声ですか。  それなら、もうアマゾンで、ご自身の本はベストセラーに認定されているのですから、それで十分でしょう。  この上何が欲しくて私を妨害するのでしょうか?  もう英語教育とは関係ないことですか。  

私は、こちらに書いてある3つのことをするのが、目的です。  日本人が子音の日本語化を知っているか、いないかで、通じる英語で話せるか話せないかが、決まります。  ですから、このことを読者の皆さんに理解していただくのは、とても大事なことなのです。  私の仕事の妨害をしないでください。 

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私のDVDで発音練習をするときは、耳に注意を集中して音を聞いて下さい。
最初はテキストを見ながら練習していただいて結構ですが、文字に気を取られていると、実際の音よりも自分がこうだと思っている音のまま発音していることが多くあります。

私はDVDの単語の発音の練習のところで、Life や Leg のLの音をほんの一瞬ですが、日本語化しない「長さのあるL」で発音しています。  そういう音をできるだけよく聞いて、同じように言ってください。

Fight や Fin の Fの音も長さをもって発音しています。  Way や Wet の W の音も長さを保持して発音しています。  それを耳でよく聞いて同じように言ってください。

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クマさん、ウサギさん、ブタさん、それぞれが持っている旗に書かれたことの理由は、2017年7月30日のブログをご覧になるとわかります。