川合典子 ブログ

英語教育、英語学習、発音習得、帰国子女の言語習得について書いています。

わが子の英語力を上げたかったら、文部科学省がどのような方針を打ち出そうと、中学、高校の英語は日本語で学習させる(1)

新学期が始まりました。  今回は、保護者の方々に「わが子にしっかりとした英語力を身に付けさせるには、中学、高校の英語は母国語で学習させる」と言う内容で4回シリーズでお話し致します。  

まだ、皆さんにお話ししたことのなかった、私と息子のアメリカでの体験をもとに、母国語を使って外国語を習得することの正しさをお話ししようと思います。

まず、本題に入る前に、お話しておきたいことは、日本人が英語を習得する場合、ヨーロッパの国々で人々がやっている方法は使えない、ということです。  その理由は2014年11月18日のブログ「ヨーロッパの英語教育に対する誤解」をお読みください。

要点だけ申し上げますと、日本人が英語を身に付ける場合、難しいことが2つあります。

1.発音(子音を単独で言うこと)
2.英語の語順で話すこと

この2つのことをヨーロッパの人々は母国語を話している時点でほとんどできています。  ですから、日本人が上の2つのことが出来るようになるための学習法を彼らのやっている英語教育に求めても、そこでは見出せません。  彼らはそういう必要がないからです。

日本人は日本人が一番困難に感じることを解決する方法を自分で見つけて、英語力をつけていかなければなりません。

今まで、日本人は外国で行われていることを上手に取り入れて成果を上げてきましたが、英語習得に関しては「日本語を母国語とする人のための独自の方法」を考えて、成果を上げなければならない、ということです。 これを念頭に置いてお読みください。

それでは今日の本題に入ります。

「わが子にしっかりとした英語力を身につけさせるためには中学、高校の英語は、母国語で学習させる」

これから数年のうちに中学の英語の授業も英語で行うことになっていますが、文部科学省がいかなる方針を打ち出そうと、わが子の英語力を上げたかったら、「日本語で」英語を説明して理解させます。  

単語の意味も、文章の意味も構造も、発音の仕方も、文法事項も、英語力の基礎になることはすべて、「日本語」で子供に理解させます。  「先生が、教室で英語でしゃべっているから何もわからない」と子供が言った場合は、教科書ガイドを買ってきて「全部日本語で理解していいんだよ」と言って、日本語で学習させます。

子供たちにとって、今の時点で言語として機能しているのは日本語です。  聞いた途端にその子の思考を動かし、感情を動かす母国語がどれほど体に深く入っている言葉か、私はそれをシカゴで体験しました。

私がシカゴにいた頃、高校時代の友人が遊びに来ました。  その日は夫も出張だったので、夕食を食べながら高校時代の思い出話に花を咲かそうと、二人で、台所で料理を作っていました。  キッチンには小さなテレビが置いてあり、アメリカの番組がかかっていました。  

彼女と料理をしながら「あの時(高校時代)は、将来、典子と一緒にお料理するなんて思ってもみなかったね」と二人で笑っていたら、その時までずっと英語が流れていたテレビから突然、「今、東京では」という日本語が聞こえました。

私も彼女も、即座に後ろを振り向いて、テレビの画面を見つめました。  そこには、アメリカの電話会社のコマーシャルが流れていて、世界各国の映像とその国の言葉が次々と流れ、最後に「世界を結ぶOOO電話会社」というような宣伝が流れました。  私たちが聞いたのは、その国々の中の一つ、日本の東京の映像が流れた時でした。

私と彼女は次の瞬間顔を見合わせて、「母国語ってすごいね」と笑ってしまいました。  不意に聞こえて来ても二人とも即座に振り返り、テレビを見つめてしまいました。

「今、東京では」この二つの言葉を聞いた途端、私の心の中には東京の景色、東京に住む人々の生活が、そのままに浮かんできました。  東京の空気まで肌に感じられるようでした。  母国語の後ろには膨大な情報が含まれています。  それは、知識だけでなく、時には皮膚感覚まで含むほど、膨大で、深い情報です。

こういう言葉(母国語)で何か言われると、頭の中で即座に思考活動が始まったり感情が動き出したりします。  学校では普通、母国語で、授業をうけますから、子供たちはよく理解し、学んだことも定着していきます。

それでは英語はどうか? というと、子供たちにとって、英語は今、出会ったばかりの言葉です。  子供たちの体に染みついて言語としての機能を果たしている言葉ではありません。  英語を聞いたところで思考活動は始まりませんし、言葉の後ろにたくさんの情報を感じるわけではありません。  これから、フランス語を学ぶ大人がフランス語を聞いても何も感じないのと同じです。

こういう言葉で、授業をやっても何も生徒に定着しないのです。  

私がこう思うようになった経験をお話ししましょう。

アメリカに来て3年たったころ、私は英語習得について息子に聞きたいことがありました。  それで、息子に「アメリカに来たばかりの年に化学を学んだでしょう?  その時に・・・」と質問しようとしたら、即座に息子は私の言葉をさえぎって、「あの頃、(授業で)やったことは何も覚えていない」と言いました。

私は、化学で学んだ内容を聞きたかったのではなく、英語の習得過程でわからないことがあったので、それを彼の体験で聞きたかっただけなのですが、こういわれてしまいました。

「あの頃(授業で)やったことは何も覚えていない」息子はそう言いました。  それではあの頃息子は何も勉強していなかったか、と言えば、そうではありませんでした。  3時前に学校から帰って来て、夜中の12時、1時まで毎日勉強していました。  家の地下室には、その年、化学のテストのために息子が使った、重要事項を暗記したカードが、何百枚も置いてありました。  そんなに勉強したのに、彼は何も覚えていないと言ったのです。  毎日7、8時間の勉強など、息子の人生で、あんなに勉強したのはあとにも先にもあの時だけだったと思います。

それなのに、息子が何も覚えていなかったのはなぜかと言うと、あの頃の彼にとっては英語で言われたことというのは、母国語のように体に深く入って行かなかったということなのです。  母国語で言われたことが例えば、地表から3メートル下まで浸み込むとしたらあの頃の息子にとって、英語で言われたことは地表から2,3センチの深さにしか浸透できなかった、ということなのです。  いつも使っていない言葉は、たとえその時、意味を調べてわかったとしても、このようにまだ、言語としての機能は果たせないのです。  聞いた途端、皮膚感覚までよみがえる母国語とは、全然違うのです。

疑似的に皆さんにわかりやすい例でいうと、こういうことです。

例えば皆さんが会社で上司から今後の予定を次のように言われたとします。

5月8日金曜日  11時より、研究所スタッフと会議
5月13日水曜日 アメリカより開発チームのリーダー来日
         UA802便 15時35分成田着、出迎え 
5月14日木曜日 9時、研究所スタッフと打ち合わせ、
9時30分、チームリーダーによる新製品のデモンストレーション

日本語で言われれば皆さんは素早く手帳に書き込むでしょう。
では同じことをいきなりナチュラルスピードの英語でペラペラ言われたらどうでしょうか。  上の予定を苦も無くさらさら手帳に書きこめる人はほとんどいないと思います。  辞書で調べなければいけないような難しい単語は一つもありません。  全部皆さんが知っている単語です。  けれども聞いた瞬間、母国語のようには反応できません。

使って来ていない言語というのはそういうものなのです。  聞いた瞬間にイメージが浮かぶわけでもなく、思考活動が始まるわけでもありません。    

生徒たちにとって、英語は今、出会ったばかりの言語です。  大人に置き換えると、これからドイツ語やフランス語を学ぶのと同じようなものです。  これから習うのですから、まだ言語として機能している言葉ではありません。  そういう言葉で、何を教えても定着はしません。

文部科学省の方針で、文法事項などは日本語で教えるとなったとしても、授業全体が英語で行われるのであれば、授業中、言っていることは、生徒の頭の右から左に抜けて、3年たったら、私の息子と同じように、「あのころ英語の授業でやったことは何も覚えていない」と言われるのが容易に想像できます。

これは生徒が悪いのではありません。  言語として、定着していない言葉で、授業などするからです。  生徒の頭に何も残らないのは当然です。 

自分の子供に英語の実力をつけさせたかったら、重要事項は全部母国語で教えます。  英語と「文化や音(子音)を共有している」ヨーロッパの国々で行われている指導法は、「共有するものが何もない」私たちには役に立たないのです。  初めて学ぶ事柄を習得させる場合は、日本人が得意とする緻密な学習で、母国語で一つ一つ、よく理解させながら教えていくのです。  

そうすれば子供はよく理解できますし、定着もします。  母国語を抜いていくのは英語学習のもっと後の段階で行います。 (このあたりのプロセスは、著書「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」をご覧ください。)  初心者には、単語の意味も、文章の意味も構造も、発音の仕方も、文法事項も、英語の基礎は全部、日本語で教えます。  

生徒たちはよく理解できますし、復習をきちんとすれば、定着もします。  これについては高校生も同じです。  より複雑な文を処理していく高校生は、なおのこと、きちんと母国語で説明してもらって理解をします。  学校では、英語で授業をされてわからなかったら、こちらも教科書ガイドを使って日本語で理解してください。

英語を英語で理解する。  ということは、生徒にとって、
わからない言葉(英語)をわからない言葉(英語)で理解する。

ということです。  

この教え方は、初級者に、まるで上級者と同じことが出来るように見せかけて、実は、そういう練習をしても、初級者は、英語のニュアンスなどまったくわかるようにはならない、という教え方です。  生徒に対して良心的でない教え方です。  詳しくは、2013年5月28日のブログ「2つの“英語を英語で理解する”は、全然違うこと」、5月30日のブログ「上級者のやっていることを真似しても、頭の中でやっていることは初級者のままです。」、2015年2月14日のブログ「空(から)のコップを見ることができない」(1)「英語のコップ」をお読みください。  

わが子の英語力を上げたかったら、英語の基礎は、全部母国語で教えます。

ここで皆さんから、次のような疑問が出ると思います。
「言語として機能していない言葉で教えても生徒に、理解、定着できないから母国語で教える」ということはわかった。  でも、いつまでも日本語で教えていたら、ちっとも英語は生徒たちの体に入って行かないのではないですか?

もっともな疑問だと思います。  これについては、次回、15日(水曜日)に説明いたします。

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私の本「続・英語発音、日本人でもここまでできます。」を購入された方で、付属CDトラック6に収録されております、Where’s my bag? のWの音の比較が聞き取れない方は、2015年2月1日のブログをお聞きください。  そうすると、生徒さんと私のWの発音の違いが聞き取れるようになります。


私の書いた3冊の本の中で、2冊目の本「続・英語発音、日本人でもここまでできます。」は、最も難しい本です。  これが、読んですぐわかる方は、相当、音をよく聞いて発音練習していらした方だと思います。  むしろ、一回読んだくらいでは理解できない人の方が多いと思います。  けれども、川合メソッドのやり方で練習していくうちに、必ず、わかるようになりますので、心配しないで、練習を続けてください。

子音と母音が常にセットになって発音される日本語は、独特な子音の言い方をします。  英語の音との違いが分かるには、少し辛抱して音を聞いてください。

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高校入試で子供たちが親の収入によって差別されない為に以下のお知らせを書かせていただきます。

高校入試のスピーキングテストについて(大学入試のスピーキングテストについても同様です)

高校入試のスピーキングテストは本来文部科学省が学校教育で正しい発音を生徒に教えてから行うべきものです。  しかし、文部科学省が教科書にCDもつけず、正しい発音の仕方も学校で教えないまま、高校入試でスピーキングテストを実施する動きが都立高校などで始まっています。 (大学入試でもスピーキングテストが行われようとしています)  これは、スピーキングスキルの習得を塾や予備校、会話学校に丸投げするものです。  学校で教えていないスキルを入試でテストすることはあり得ません。

これでは経済的に余裕のない、塾や会話学校にいけない家庭の子供は誰にも正しい発音を教えてもらえず、練習するCD(音声モデル)も与えられないまま、高校入試でスピーキングテストをされることになり、明らかに親の収入による進路の差別が始まります。(詳しくは2018年3月8日のブログ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」をお読みください。)

皆さんの身近に教育関係者がいらっしゃいましたら、ぜひ「高校入試のスピーキングテストは子供を親の収入で差別するもの」であることをお伝えください。  (大学入試のスピーキングテストについても同じことです)  
15歳で親の収入のために進路を差別されるのでは子供たちがあまりにもかわいそうです。

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英語教育については、下のブログも併せてご参照ください。  日付をクリックすると移動できます。
2017年10月12日
文部科学省 新中学校学習指導要領 英語 「4技能」は全く効果がない(子供たちが通じる発音でスラスラ話せるようになる学習指導要領の見本付き)





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高校英語教育を文部科学省の誤解に基づいた方針から守るため、以下のご案内を書かせていただきます。

現在文部科学省が「グローバル化に対応した英語教育改革」の目玉として掲げているCAN-DO方式は、ヨーロッパの人々にはできますが、日本語を母国語とする人にはできない方式です。

文部科学省は「CAN-DO方式が日本人には不可能な方式である」と気づいておりません。  導入されれば教育現場は大変迷惑します。  中止する必要があります。  なぜCAN-DO方式が不可能なのかはこちらのブログをお読みください。

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何度もお願いをしているのですが、アマゾンのページで私の本のランキングを下げて妨害をしている人がやめてくれないので、(詳細はこちらです)しばらく以下の文章を掲載させていただくことにしました。

「本を出版する人は、他の著者の妨害をしない。  他の著者を妨害する人は自分の本も出版できない。」
出版社におかれましては、このことを出版の際、著者に理解していただいてください。

私のランキングを妨害している人は、たぶん、現実を受け入れられないのでしょう。
アマゾンの順位を1ペ―ジ目から2ページ目に下げられ、数日でまた2ページ目から3ページ目に下げられて、私は、この方の激しい妨害に驚いています。 

「学習者に正しい発音を習得してほしい」というのが自分の目標でしたら、他人を妨害する必要はありませんね。  他人を妨害してまで、何を手に入れたいのでしょうか。  ベストセラーの著者という名声ですか。  それなら、もうアマゾンで、ご自身の本はベストセラーに認定されているのですから、それで十分でしょう。  この上何が欲しくて私を妨害するのでしょうか?  もう英語教育とは関係ないことですか。  

私は、こちらに書いてある3つのことをするのが、目的です。  日本人が子音の日本語化を知っているか、いないかで、通じる英語で話せるか話せないかが、決まります。  ですから、このことを読者の皆さんに理解していただくのは、とても大事なことなのです。  私の仕事の妨害をしないでください。 

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クマさん、ウサギさん、ブタさん、それぞれが持っている旗に書かれたことの理由は、2017年7月30日のブログをご覧になるとわかります。